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「えんとこ」―本物の言葉たちが飛び交う場

2019/06/10 10:22/「えんとこ」―本物の言葉たちが飛び交う場

 

 「えんとこの歌」(2019年、96分)と題するドキュメンタリ−映画を見た。すごいのひと言。「寝たきり歌人・遠藤滋」というサブタイトルが付いている。障がい者の「生き方」に向き合い続けてきた映画監督の伊勢真一さん(71)が前作の「えんとこ」(1999年)を受けて制作した最新作。「遠藤滋のいるトコ、縁のあるトコ、ありのままのいのちを生かし合いながら、生きる…トコ」―。「えんとこ」にはこんな思いが込められている。2017年夏、神奈川県相模原市で起きた「障がい者大量殺人」事件をきっかけに、20年ぶりに続編の制作に取り組んだ。

 

 遠藤滋さん(71)は仮死状態で生まれ、1歳のころ、脳性小児マヒと診断された。大学を卒業後、重度障がい者として初めて、母校の養護学校(当時)で国語教師となった。しかしその後、障がいは進行し、寝たきりの状態になってすでに34年になる。学生時代の友人だった伊勢さんの背中を押したのは、遠藤さんの「微動だにしないまっさらな生き方」だったのかもしれない。

 

 東京・世田谷のマンションの一室が遠藤さんの根城である。2DKの部屋に若者たちの明るい声がはね返っている。女子高生や腕にタトゥを施したバンドマン、海外からの留学生、悩みを持つ中学生…。「重度訪問介護」事業の認定を受けた介助の仕事に、この34年間で2千人以上の若者たちが関わってきた。1日24時間3交代の介助が必要な遠藤さんは介助者の前にすべてをさらけ出すことでしか「生」を維持することはできない。排泄介助を受け持つ女性が一瞬、戸惑いを見せる場面がある。「遠藤さんには何の隠し事もない。なのに自分の方がためらっている。これはおかしい」―。汚物処理を終えた女性がニッコリ笑って言った。「出たよ。バナナの半分くらい」

 

 映画の主人公は言うまでもなく遠藤さんである。しかし、場面が進むにつれ「もうひとりの主人公は介助に当たる若者たちではないか」と思えてきた。いや、こっちの若者たち方が実は本当の主役ではないのか、と。タトゥのバンドマンが何ごとか独りごちている。「『寄り添う』っちゅうのとはちょっと違うんだよな。『寄り合う』っう方がピンとくるな」―。互いが互いをさらけ出すこの空間に飛び交う言葉たちに虚を突かれる思いがした。漂白されたような薄っぺらな言葉が浮遊するいまの世の中、この狭い空間の中で久しぶりに「本物の言葉」と出会えたような気がした。そう、「えんとこ」とは「ここに集まる若者たちのいるトコ(居場所)」だったということに…

 

 遠藤さんは50代から短歌を詠むようになったが、最近では発声も困難になってきた。口元に耳を寄せ、上唇をつまむようにして話してもらう。辛うじて聞き取れた無声音を一語一語、パソコンに打ち込んでいく。そこにはたとえば、こんな歌が映し出される。

 

●激しくもわが拠り所探りきて/障害も持つ身に「いのちにありがたう」

●自らを他人と比ぶることなかれ/同じいのちは他に一つなし

●手も足も動かぬ身にていまさらに/何をせむとや恋の告白

●恐ろしき事件ならずや十九人/元職員に刺殺さるとは

 

 

 今回の上映は「はなまき映像祭2019」(5月8〜9日)の一環として、花巻市内のイベント会場「ブドリ舎」で開催された。宣伝が行き届いていなかったとはいえ、9日に訪れた観客はわずか10人足らず。関係者を除くと、地元住民の姿はほとんどなかった。7月から東京・新宿の「ケイズシネマ」を皮切りに全国各地で劇場公開される。自主上映も呼び掛けており、問い合わせは−TEL03−3406−9455;FAX03−3406−9460(いせフィルム)

 

 「自分の足で歩こうという思いを諦めない遠藤のように、私は生きようとしているだろうか。ありのままのいのちを生かし合いながら生きる…ということを私は遠藤から学んだ」と伊勢さんは語っている。

 

 

(写真は「えんとこの歌」のポスタ−)

2019/06/10 10:22
ヒカリノミチ通信|増子義久

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