秋の気配が少しずつ感じられるようになったが、真夏の夜に突然降ってわいた“エアガン”騒動(8月9日付当ブログ「上田城、ついに落城か!?」参照)の余波は静まる気配がない。朝日新聞全国版は「ニュ−スQ3」欄(8月15日付)で、この珍騒動の背景を分析する記事を掲載。あらためて花巻市当局の対応のお粗末ぶりが天下にさらされる結果になった。まさか頬かむりすることはあるまいとは思うが、この恥さらしの責任をどう取ろうとしているのか。木で鼻をくくったような一片の謝罪文で済される話ではない。しばらくはその動向から、目を離すことはできそうもない。以下に朝日新聞の記事を転載する。
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ふるさと納税の返礼品に地元産のエアガンを――。そんな岩手県花巻市の取り組みが、2日間で打ち切りとなった。「返礼品に銃はそぐわない」との声が庁内から噴出したためという。安全性の検査をパスした製品だが、なにがだめなのか。
「私たちの商売が否定された」。花巻市のエアガンメ−カ−・KTWの和智香(わちかおる)代表取締役(69)は吐き捨てるように言った。市から、返礼品にエアガンを加えたいと要請があったのは7月8日。量産できないため、3万5千円の「ウィンチェスタ− M1873 カ−ビン」を1丁限定で認めた。市は8月1日、12万円以上のふるさと納税の返礼品として、ホ−ムペ−ジにエアガンを掲載。45分後には申し込みがあり、受け付けは終了した。
状況が一変したのは翌2日、エアガンの返礼品についてメディアから問い合わせがあり、市役所の担当部門以外から問題視する声があがったという。担当者は「かわった物を返礼品にと考えたが、エアガンへの理解が庁内で十分共有されていなかった。殺傷能力はないが、対人用の武器を再現したものは、不適切と判断した」と話す。翌日、中止を公表した。申込者にも理解を得たという。
和智さんは、エアガンの製造を手掛けて約30年。返礼品の機種は、映画「ラストサムライ」(2003年)にも登場する騎兵銃がモデルで、計1万丁以上も売れた人気商品だ。ル−ルを守って「本物そっくりに作る」ことが信条だけに、「危険なものだというレッテルを貼られた」と憤る。
エアガンとは、プラスチック製のBB弾(直径6ミリ)をガス圧や電動で発射する玩具銃のこと。日本遊戯銃協同組合によると、1990年代にサバイバルゲ−ムを楽しむ人が増え、需要が拡大した。ビデオゲ−ム「バイオハザード」やアニメ「宇宙戦艦ヤマト」に登場する銃などが特に人気で、1千円台から手に入る。大人用エアガンの18歳未満への販売を条例で禁じている自治体もある。
危険性はないのか。以前は、改造して威力を高めたエアガンで人や動物、車を狙った事件が多発。国は06年に銃刀法を改正し、一定以上の威力をもつエアガンの所持を禁じた。組合の高津昭理事長は「改正法をうけて、弾が当たったときに、皮膚が破れて血が出ない威力に抑えている。改造できないような工夫をこらし、厳しい検査が通ったものだけを市場に出している」と自信をもつ。
ただ、改造できる海外製のエアガンも出回っている。猫を撃つなどの事件も後をたたない。高津さんは「おもちゃであっても、警戒する人がいるのは理解している。だからこそ、『日本製のエアガンは安全』とわかってもらえるよう努めてきた」という。
ふるさと納税の趣旨からみてどうか。地方財政に詳しい一橋大の佐藤主光教授(財政学)は、「ふるさと納税は地域や自治体に共感し、応援するための制度で、本来、返礼品は必要ないはず。意味ある返礼品があるとすれば、地元の隠れた名産品を全国に紹介する場として使うべきだ」と話す。その上で、「エアガンだから悪いというわけではなく、マニアに人気で、黙っていても売れるものをあえて選ぶ必要はなかった。急きょ取り下げたことも、商品にダメ−ジを与えてしまった」と指摘する。
(写真は西部劇でおなじみのカ−ビン銃。「西部を征服した銃」とも言われ、インディアン(アメリカ先住民)を虐殺したシンボルでもあった=インタ−ネット上に公開された写真から)