気持ちが落ち込んでいる時、まるで心の内を見透かすようなタイミングで、その人は”言(こと)の葉(は)”を届けてくれる。今回のそれは批評家で随筆家である若松英輔さんの詩集『たましいの世話』―。「先に逝ってしまった大切なあなたへ」と帯にある。ペ−ジをめくると、「いのち ひとつ」と題する詩が目に飛び込んでくる。こんな詩である。
亡くなったのは
わたしが愛した
あの人で
千人の中の一人ではないのです
もう 抱き合えない
あの人は
街を歩く 千人を
どんなに探しても
見つかりません
亡くなった人が
多いとか
少ないとか
そうした
話しの奥には いつも
たった ひとつの
いのちを喪った
わたしのような
人間がいるのを
忘れないで下さい
「約束」「悲しい人」「はげまし」「しあわせのあかし」「慰めの方法」「別れ」「なぐさめの真珠」「透明な釘」…。こんなタイトルの詩編が34、並んでいる。たとえば、亡き妻が好きだったヨハン・パッヘルベルの「カノン」の旋律をそのひとつひとつに重ねてみる。「生きる」ということの意味を底支えしてくれる、かけがえのない時間である。
(写真は生前の妻が片時も離さなかったCD。若松さんの詩編にすう〜っと、溶けこんでいくよう)