「(市当局には)何を言っても聞いてもらえない。若い人たちの間にもそんな『長いものに巻かれろ』というあきらめム−ドが強い。こんな『声なき声』をこれからどうやってすくい上げていくのか」―。中年の女性のこんな発言がきっかけで、会場には堰(せき)を切ったように行政不信の渦が巻き起こった。20日、花南振興センタ−で開かれた「JR花巻駅橋上化・東西自由通路」整備に関わる市民説明会には女性5人を含めた25人が詰めかけた。この構想については以前から、約40億円という巨額の事業費の多くが国の補助などでまかなわれるという市当局の説明に対し、「肝心の活性化策など青写真(グランドデザイン)が示されていない。なぜなのか」という疑念がもたれていた。
私自身もそのことを指摘したうえで、こうただした。「市が公表した想定問答集には駅橋上化整備は花巻駅周辺の活性化を図るため、検討すべきと明記されている。一方、今年6月に開かれた松園地区の市政懇談会では、橋上化がダメになれば、新図書館の駅前立地も難しくなるという趣旨のことが語られている。この発言の乖離(かいり)をどう理解すればよいのか」―。これに対し、松田英基副市長らは「橋上化と新図書館とは別のものだと理解していただきたい。仮に新図書館がまなび学園周辺に立地されることになったとしても、橋上化は予定通りに進めることになる。ただ正直言って、橋上化による活性化の効果は期待できないと言わざるを得ない」。えっと、思わず身を乗り出した。
まさに、市当局の「論理」が破綻した瞬間だった。会場からいっせいに手が挙がった。冒頭の発言を受ける形で高齢の女性が言葉を継いだ。「先ほどの女性の発言に同感です。すぐ、答えてください。説明会で住民の意向は聞き置いたというんじゃないでしょうね。私たちはみんな納税者です。こんな私たちの声にもちゃんと耳を傾けるのが行政の使命じゃないですか」。私の発言の際、数人から「もうやめろ。長すぎる」とヤジが飛んだ。次の瞬間、競うように挙手をする光景に逆にこっちの方があっけにとられた。その数10人以上。
「駅前の活性化なんて、誇大な宣伝だったことが今、はっきりした」、「JR側の持ち出しがほとんどないことに前から疑問を感じていた。橋上化によって一番、得をするのは相手側。もう至れり尽くせり。なにか裏があるみたいで、すっきりしない」、「今日の説明でまず、橋上化ありきというのが明らかになった。それに伴うまちづくりのビジョンを今、ここに示してほしい」…。中年の男性がボソッとつぶやいた。「市長が新図書館の駅前立地に異常にこだわる、その理由がやっとわかったような気がする。これって、”二枚舌”っていうんじゃないのか」
「新病院や高等看護学校、認可保育園などの複合的機能の展開により、移転地において年間80万人の交流が図られ、市中心部におけるにぎわいの創出や、地域の活性化につながると考えられます」―。上田東一市長が最初に手掛けた大型プロジェクトである総合花巻病院の「移転整備基本構想案」(2015年11月)にはそう書かれ、「80万人」構想の根拠に多目的ホ−ル(234席)や助産所、オ−ガニックレストランの開設などが盛り込まれていた。2年前にオ−プンした移転先の新病院にはそのどれもがない。上田市長はこれまでの議会でいみじくもこう答弁している。「グランドデザインを描くことは逆に将来にリスクを残すことになりかねない。つまり、絵に描いたモチになるということだ」―
その言をしかと受け止め、肝に銘じておきたいと思う。私たち市民はこれまで「活性化」という名の正真正銘の『絵に描いたモチ』を食わされ続けてきたということを…
(写真は市政批判が飛び交った橋上化説明会=9月20日午後7時すぎ、花巻市南城で)