「新図書館の立地場所は当初から駅前が既定路線だった」―。花巻市の上田東一市長は市民の考え方が二分される新花巻図書館の立地場所について、実は計画当初から「駅前」立地を強行する立場に立ち、JR側と“密室”で協議していたことが、開示請求した行政文書で明らかになった。市議会や市民説明会などで「立地場所はまだ、最終決定したわけではない」と答弁を繰り返してきたが、その背後ではひそかに駅前立地に向けた地ならしをしてきたことがうかがわれ、明らかな“虚偽”答弁の疑いが強くなった。
上田市政の政策理念は2016(平成28)年6月に策定された「花巻市立地適正化計画」にさかのぼる。この時点における新図書館の立地場所は「生涯学園都市会館(まなび学園)周辺」と明記されていた。ところが、翌2017(平成29)年8月に公表された「新花巻図書館整備基本構想」では立地場所が「数か所」に拡大された。この時期を境にJR東日本盛岡支社と市当局(生涯学習部と建設部)との間で非公開の会議がひんぱんに開かれるようになった。
今回、開示請求したのは「基本構想」が公表される2か月前に立ち上げられた「まちづくり勉強会」と称する会議。JRと市当局の担当者で構成され、2017(平成29)年6月7日開催の第1回目から翌2018(平成30)年10月3日まで計10回の会議がもたれている。開示請求したのは3月30日付で、1カ月半以上待たされた上で、今月22日付でやっと開示された。87枚のコピ−のほとんどは真っ黒く塗りつぶされた、いわゆる“のり弁”だった。
とくに目を奪われたのは「花巻新図書館プロジェクト」計画資料(案)という表題の文書。その内容が書かれた22ペ−ジ分がそっくり、判読不明に塗りつぶされていた。「よっぽど、外にはもらしたくないことが書かれているのでは…」―。闇に隠された部分を詮索したくなるのが人情というものであろう。利害関係者という情報公開上の制約から伏字になっている部分はほとんどがJR側の発言分。それでも部分開示した行間から「駅前」立地に前のめりになる姿勢も読み取れる。たとえば、双方の口からふともれるこんな発言―
「駅舎以外、市として図書館とともに機能付けするものは何か」(JR)、「図書館と複合施設によって描くまちづく案と自由通路や駅舎の整備に関するオ—ソライズのタイミングが合うと分かりやすい」(市)、「上層階が図書、低層が多機能スペ−スかと。これらを一体で運営できる手法があるとよい」(JR)、「(平成30年7月の)図書館協議会に立地場所を駅の方にという公表になる。11月の時点では橋上(駅自由通路)の考えと図書館とのイメ−ジを対外的に示したい」(市)、「図書館と複合の事業で周辺の価値を高めていく。その分周辺の価値が上がり、税収をペイできる」(市)…
「まちづくり勉強会」と平行した形で、もうひとつの組織が設置されていた。「花巻駅周辺整備調査定例会」と称し、メンバ−の構成はほぼ同じだった。まちづくり勉強会に遅れること約半年後の2017(平成29)年12月15日に第1回目の会議を開催し、翌2018(平成30)年8月7日まで9回の会議がもたれている。後者の会議については以前に同様の文書開示請求をし、当市の懸案である「JR花巻駅の橋上化(東西自由通路)と新図書館」とはワンセットの事業計画であることを明らかにした(2023年1月14日付当ブログに詳細を掲載)
この二つの非公開の会議で練り上げられた結果、正式に公表されたのが「新花巻図書館複合施設整備事業構想」(2020年1月29日)、いわゆる“上田私案”とも呼ばれる「賃貸住宅付き図書館」の駅前立地だった。市民や市議会の頭越しに降ってきたこの構想がその後、「白紙撤回」に追い込められたのは当然の成り行きだった。現在、旧花巻病院の跡地が立地候補地として、一挙に注目を浴びつつあるが、上田市政に「駅前」立地の旗を降ろす気配はない。なぜ、これほどまで頑(かたく)なになるのだろうか。
「JRは花巻駅の橋上化をやりたいと思っており、橋上化の話が進めば、土地の売買について真剣に話をしてくれる可能性はある。橋上化がなくなった際には、駅前に図書館を建設することについてもどうなるか分からない」―。上田市長は令和4年6月に開かれたある市政懇談会の席上で、こう述べた。市議会でこの真意をただされた市長は「反問権」を振りかざし、血相を変えてその発言を否定した。おそらく、図星をつかれたための狼狽だったのだろう。そして、そのからくりはJR側が作成した前記の「花巻新図書館プロジェクト」計画資料(案)の中にその詳細が記されているはずである。黒塗り文書の背後から「利権」という不穏な言葉が見え隠れする。
(写真はこれぞまさに“ブラックリスト”にふさわしい「のり弁文書」。本文の判読可能箇所はわずか2行だけ)
《追記ー1》〜幻の図書館計画書(コメント欄に写真掲載)
全22ページにわたって書かれたこの「幻の図書館計画書」の中にひょっとしたら、“利権”めいたことがうごめく「闇の世界」が広がっているのかもしれない。
《追記―2》〜追認機関と化す「検討会議」
上田市長は昨年の市議会9月定例会で「検討会議のメンバ−の多くが賛同した」として、駅前立地を第1候補にすることを初めて、公に明らかにした。「新花巻図書館整備基本計画試案検討会議」は有識者や図書館関係者など各種団体が集まって、2021(令和3)年4月に発足。しかし昨年の9月以降、すでに8カ月以上も開催されていない。つまり、上田市長の意を体(たい)する“操り人形”(追認機関)としての正体があらわになっている。
《追記ー3》〜図書館問題、一般質問への関心高まる
花巻市議会6月定例会は6月16日から19日(会期14日間)の日程で開催される。一般質問は19日から3日間で、市民の関心が高い新図書館問題については4人の議員が質問する。登壇者は以下の通り(敬称略)
・19日〜久保田彰孝(共産党花巻市議団)
・20日〜高橋修(明和会)、鹿討康弘(はなまき市民クラブ)
・21日〜羽山るみ子(はなまき市民クラブ)