「愛は人を癒(いや)し、誠(まこと)は病を治す」―。こんなスローガンを掲げ100年以上にわたって、地域医療に貢献してきた公益財団法人「総合花巻病院」(大島俊克理事長)で人事管理やパワハラ問題をめぐって、裁判沙汰が起きていることが明らかになった。さらに今春、経営悪化に陥った同病院に対し、当市や金融機関が総額11億円にのぼる巨額な財政支援に踏み切ったのをきっかけに、病院内における“モラルハザード”(士気の低下)も指摘され、再建に向けた前途に暗雲が立ち込めている。
病院側を相手取って、「降格処分」の無効などを求める民事訴訟を起こしているのは40代男性技士のAさん。訴状によると、Aさんは2020(令和2)年2月1日付で、移転・新築前の同病院に臨床工学室技士長として採用された。約3年後、Aさんは「患者さんに安全で質の高い医療を提供するためには、医師と看護師との有効なコミュニケーションが必要だ」という趣旨の提言書を医療安全担当者の会議に提出した。病院側の態度が急変したのはこの直後だったという。
上席の専務理事から再三にわたって文言の訂正を強制されたうえ、Aさんは2023(令和5)年2月1日付で技士長から「主任」級に降格され、手当ても月額2万円の減額になった。提訴に踏み切ったのは約4か月後の昨年5月。Aさんは取材に対し、こう述べた。「解雇もほのめかされた。なかば“監禁状態”の中で無理やり、同意書を書かされた。その時は恐怖心にかられたが、いのちに関わる医療の実態を闇に葬ってはならないと思い、裁判を決意した」。Aさんは精神的な苦痛などに対する慰謝料を含め、総額1,160万円の賠償を求めている。裁判は今後、被告側の証人尋問や原告側の本人尋問などを経て、早ければ今年中の結審が見込まれている。
一方、同病院の経営悪化の要因として真っ先に挙げられているのが「病院移転費用」―。市側は新病院の開院に当たって、ざっと20億円の財政支援をしたが、わずか4年余りで経営が行き詰ったことになる。市側の内部資料によると、旧病院の解体費用や土壌改良費用が想定の約6億円を上回る約9億8千万円、新病院の建物や医療機器などに係る減価償却費が想定の約17億円を大幅に上回る約28億円にのぼったことが経営の足を引っ張ったとしている。
新病院の移転・新築事業は上田(東一)市政の政策理念「立地適正化計画」の第1号と言われる。国からの有利な融資を受けるため、計画策定に前のめりになった結果、診療科目の充実や医師の確保など医療本体を後回しにした“見切り発車”の側面も否定できない。その意味では今回の経営悪化を引き起こした一因は「行政主導」を先行させた市側にもあると言わざるを得ない。また、訴状に登場する「専務理事」が医師免許のないコンサルタント会社からの派遣だったことも、”労務管理”偏重の経営に傾き、今回の裁判沙汰につながったと言えそうだ。
「児童生徒への模範となるよう、病院職員として自覚をもっての行動を徹底するよう…」―。最近、病院内の掲示板にこんな告示が張り出された。がれきが放置されたままになっている「新興製作所跡地」(花巻城址)に隣接する職員駐車場を利用する際、近くの私有地を勝手に横断したり、大声で歩きスマホする職員が目立ち、地元の町内会から苦情が寄せられたのだという。「貧すれば鈍する」―。市民のいのちと健康を守るという原点に立ち返り、一日も早く健全な病院経営を目指してほしいと切に願う。
(写真は経営悪化が表面化した総合花巻病院。9月をメドに再建計画がまとめられることになっている=花巻市御田屋町で)
《追記》〜ワイマール(ヒトラー)を生んだ自由の国
映像の世紀を見たという花巻市民から、以下のようなコメントが寄せられた。うなずくことが多い内容だった。
「何も決められないからという理由で、第一次世界大戦後、最も自由な国家であったドイツ共和国を独裁国家に変えてしまった今夜のNHK番組を見て思うことは、花巻市政に関わる重要な課題を、長期間にわたって何も決められない花巻市長や、その委任によるかりそめの第三者であるファシリテーターなるわけのわからない存在に意思決定を任せてはいけないということです。私たちは今、いろんな意味で歴史の転換点にいることを思うべきではないでしょうか」