「この人は今度は議会を乗っ取るつもりではないのか」―。2月2日開催の花巻市議会臨時会の中継を見ながら、本気でそんな気がした。「開催前」報告なるコロナ対策の長口舌がやっと終わったのは約40分後。この間、議会の正式な開会は待ったをかけられた格好。ハッと目が覚めた。上田(東一)強権支配の軍門に下った感のある役所に続いて、目の前では“議会ジャック”の茶番が進行しつつあった。議員在職時代の苦い経験を思い出した。一般質問の持ち時間(60分)の大半を答弁に費やすこの人に対し、「もう少し簡潔に答弁できないのか。一問一答こそが議員の使命。これは単なる時間稼ぎで、質問権の侵害に当たる」と何度、抗議したことだったことか。
ひょっとしたら、この人は神聖な議場の場をあと一年を切った市長選の“事前運動”に利用しているのではないか。コロナに関する報告は喫緊の重要課題にはちがいないが、であるなら自分の執務室から直接、市民に呼びかけたらどうなのか。それにしても「40分」とは長すぎやしないか…。こんな意地悪な考えが去来した。小原雅道議長にてんまつを聞いたら、こんな返事が返ってきた。「開催前報告はコロナ禍をきっかけに設けられた。以前には一時間を超える報告もあった。議場という場所をわきまえて、できるだけ短くするように要求しているのだが…」
1カ月ほど前の1月6日、バイデン米大統領の就任を正式に決定するために開かれた連邦議会議事堂をトランプ支持者が襲撃するという前代未聞の事件が起きた。フランク・シナトラが主演した映画「影なき狙撃者」(1962年、米国映画)は大統領候補者までも標的にした政治サスペンスである。皮肉屋の作家、辺見庸さんは今回の襲撃事件にこの映画を重ねて、自らのブログにこう記していた。「おそらく銃声は聞こえない。突如、演説者の額が撃ち抜かれる。崩れ落ちる演説者。ブレ−キング・ニュ−ス!狙撃シ−ンが世界をかけめぐる。米国社会にくぐもるルサンチマンと野蛮、暴力衝動が新しい暴発を誘発する。なんどでも」(1月21日付「米大統領就任式の虚妄」)
議会中継に目を移す。ゴマすりみたいな質問が何件か続き、臨時会は一般会計補正予算の専決処分を「異議なし」で可決し、正午前には幕を下ろした。「もう少し簡潔に話してほしい」というヤジひとつ聞こえてこない。言葉の”銃撃戦”に発展する気配は最後までなかった。上田“パワハラ”市長による、“議会ジャック”はこうして成功裏に終わったのだった。連邦議会襲撃の方がよっぽど刺激がある。辺見さんはこうも書いている。「現実が想像を圧倒する。人はそれを望まずに望んでいる。言葉はどこまでも乖離してゆく」―。現実も想像も、そして言葉さえも「死に体」のイーハトーブ議会に対し、私たち市民が望む期待はもはや露ほどもない。上田ワンマンのにやけ顔が目に浮かぶ。
(写真は佞臣(ねいしん=主君にこびへつらう家来)たちを従え、答弁にいそしむ上田市長。議員たちは黙って聞き入っている=ある日の花巻市議会議場の光景)