「図書館のあり方をみんなで考えよう」―。「新花巻図書館―まるごと市民会議」主催の第4回オンライン講演会が4月25日(日)午後2時から開かれた。講師は当市出身の童話作家、柏葉幸子さん(盛岡市在住)。デビュ―作の『霧のむこうのふしぎな町』(1974年、講談社児童文学新人賞)はのちに、空前のブ−ムを呼び起こした宮崎アニメ「千と千尋の神隠し」(第52回ベルリン国際映画祭金熊賞)のモチ−フになったことで知られる。1時間の持ち時間をフルに使い、時にユ−モアを交えた“柏葉ワ−ルド”に参加者は酔いしれた。
「いま、コロナ禍でふるさとに戻れない悲しみを多くの人が抱えている。この作品も10年前の東日本大震災をきっかけにしたある種の“ふるさと喪失”物語。そんな視点で読んでもらえたら…」―。柏葉さんは舞台化や映画化で話題を呼んでいる『岬のマヨイガ』(2016年、野間児童文芸賞)に触れて、こう語った。この作品のもう一方の主人公は『遠野物語』に登場するカッパやオオカミなどの妖怪たち。舞台化に当たっては世界的に有名な人形劇師、沢則行さん(チェコ在住)が担当した。「人形に仕立てたのが大当たり。その沢さんが今度はコロナ禍のため、チェコに戻れなくなった。お陰でずっと、舞台指導をやっていただけた」と笑いを誘った(2月11日付当ブログ参照)
「図書館って、ひとつの人格ではないのか」と言って、柏葉さんは一冊の本を紹介した。『炎の中の図書館―110万冊を焼いた大火』(ス−ザン・オ−リアン著、羽田詩津子訳)…米国史上最悪の図書館火災に見舞われたロサンゼルス中央図書館の復興の足跡を追ったルポルタ−ジュである。「この本を読みながら、図書館とは司書と利用者が一緒になって育てていくもんだとつくづく、思った」と柏葉さん。アフリカのセネガルでは人が亡くなることを「図書館が燃えた」と表現することをこの本で知った。たぶん、柏葉さんも同じことを言いたかったのではないだろうか。
「よく、編集者から言われるんですよね。あなたの本は推理小説と漫画を一緒くたにしたみたいだ、と。要は根がオッチョコチョイなんですね。そのオッチョコチョイが底をついたみたい。よく、これまで無事に生きて来れたもんだと思います。物書きのかたわら薬剤師もずっと、やってきました。だって、児童書だけじゃ食っていけませんもの」―当年、67歳の柏葉さんは最後までユーモアを忘れなかった。
質疑の中で「花巻らしさとは何か」―を問われた柏葉さんは「う〜ん、よくわからない」と口ごもりながら、モゴモゴと続けた。「(宮沢)賢治さんも読まれているし、それを表に出して図書館づくりを考えるとか…」。考えて見れば、賢治は銀河宇宙を飛翔(ひしょう)し続けた童話作家だった。「柏葉作品も宇宙や異界を股にかけている点ではおんなじだな」と妙に得心した。まこと、「イーハトーブ」とは岩手・花巻のことだったことにハタと心づいたのだった。賢治の造語であるこの言葉は一般的には「理想郷」という意味で使われることが多いが、初出の『注文の多い料理店』(広告チラシ)では「ドリームランド」と表現している。”夢の国”―私にはこっちの方がぴったりくる。そう、「理想の図書館」から「夢の図書館」へ……
この日の講演会の録音動画は「まるごと市民会議」のホ−ムペ−ジとフェイスブック上で近く公開する。
(写真は笑顔を浮かべながら、話す柏葉さん。ユ−モアいっぱいの講演に参加者は魅了された=4月25日午後、インタ−ネット上の画面から)