「トップ志向がお好きなMr.PO(上田東一市長)はさぞかしご満悦のことであろう」―。地方自治体の専門情報誌『日経グロ−カル』(NO.411 5月3日発行)が未回答の2市を除いた全国813市区の中で、当市花巻の2020(令和2)年度補正予算(一般会計)の上程回数が30回(同誌の調査回答期限の時点では29回)と全国最多だったという調査結果を掲載した。「国や県の動向をみながら、コロナ対策を市長の専決処分できめ細かく出したことが最大の理由」と取材に応じた職員は話しているが、果たしてそうか。数字の裏側を辿っていくと、そこには上田“強権支配”の構図が透かし絵のように浮かび上がってくる。
「本来は議会が議決しなければならない事件を、時間的に議会の招集を待てない緊急な場合などに、行政運営の遅れや滞りを防ぐため、例外的に市長が議会の議決に代わり意思決定する」―。地方自治法第179条は「専決処分」の趣旨について、こう規定している。また、この処分を行った後はすみやかに議会への報告と承認を得なければならないとされている。今回のコロナ禍は当然、こうした“緊急事態”に該当することは言うまでもない。事実、当市の30回の補正予算の内訳は22回がコロナ関連である。ところで、案件ごとに仔細に分析を進めていくと―
△専決処分12件(7件がコロナ関連)、△臨時会における議決9件(すべてがコロナ関連)、△定例会のおける議決9件(うちコロナ関連が6件)…。一体、この数字は何を意味しているのか。未知のウイルスへの臨機応変が迫られる事態とはいえ、この手続きにはある種の「恣意」や「意図」が感じられる。なぜ、十分な質疑の時間が用意された定例会での審議がわずか6件なのか。なぜ、議案が当日配布され、質疑の準備もままならない臨時会での議決が9件に及んでいるのか。専決処分が7件というのも多すぎはしないか。直近の第5回臨時会(5月18日)の異様な光景が私の目に焼き付いている。
「国は、その供給スケジュ−ルをもとに、65歳以上の高齢者で接種を希望する高齢者が7月末までに接種を終えられるよう、地方自治体に対し接種計画の見直しを求めたところです。当市においては、ワクチンの供給スケジュ−ルが示されない中で花巻市医師会をはじめとする関係者との調整の中で、高齢者への接種につきましては8月中の終了とする接種スケジュ−ルを策定することとしていたところでありますが、国の要請により、7月末までには接種を希望される高齢者の方に接種を終えることを目標とする接種計画に見直すこととし、…このままでは、コ−ルセンタ−につながりにくい状況がさらに進むことが予想されますことから、回線数を現状の10回線から30回線に増やすこととして、必要経費を補正予算として本臨時議会に提案しております」―
30分にも及ぶ「開催前」報告に耳を傾けながら、オヤっと思った。1カ月の「前倒し」はスケジュ−ルの大幅変更である。現場の混乱も予想される。と、思って議会中継の議員席に目をやると、みんな虚を突かれたようにキョトンしているではないか。総額1億5千万円以上のコ−ルセンタ−増設費を計上した議案書が議員全員に配布されたのはこの日の午前9時からの議会運営委員会が終了し、同10時からの開会直前。「これじゃ、まるで騙まし討ちではないか」と同情したくもなる。
私の手元に「新型コロナウイルスワクチン接種のご案内(ク−ポン券在中)」と印刷された封書がある。「ワクチン接種を希望される方は、この通知とは別に送付される接種会場通知に記載の日時及び集団接種会場での接種をお願いします。接種会場通知は、3月に届く方、4月に届く方など様々です。ですが、必ず会場予約の案内が届き、希望する方はワクチンを接種できますので安心してお待ちください」―。5月の下旬にさしかかろうとしているが、私の手元にそれらしき通知はまだ、届いていない。
「臨時会の議案配布は以前から開会の直前。だから、提案理由などを吟味する時間的な余裕もない。こんなやり方を許してきた議会側に責任もあるが、最低1週間前には配ってほしい。抜き打ち的な開催を抑制するためには隣の北上市のように通年議会の導入も考える時期かもしれない」―。ある現職市議は自戒を込めて、宙を仰いだ。案の定、質疑では「コ−ルセンタ−の対応はとても良いとの評判だ」などと的外れの内容に終始した。「討論の通告はありません。これから採決に入ります。異議なしと認め、よって第3号議案は原案通り、可決されました」―議長の声を聞きながら、私は臨時会そのものが究極の“専決処分”の場に堕する瞬間を見せつけられたような気がした。まんまと「議会の私物化」に成功したMr.POが内心、ほくそ笑む姿も眼前に去来した。
補正予算の上程がわずか4回と少なかった東京都目黒区は「コロナ対策は、ある程度まとめて打ち出した。専決処分をしなかったため、補正の回数は少なかった」と同誌上で語っている。編集子は的確にこう分析している。「コロナという緊急事態で専決処分による迅速な対応と議会重視の姿勢のどちらを優先するか。首長の考え方も補正の回数に反映していると言えそうだ」―。なんたって、「NO1」…この人の“PO”ぶり(パワハラ&ワンマン)にはますます、拍車がかかりそうな気配である。令和3年度に入ってもすでに2回の臨時会が開かれ、コロナ関連のいずれもが「異議なし」の一声で可決されている。議員諸賢よ、もう少し踏んばらんか!?
(写真は「補正上程、全国最多」と掲載した『日経グロ−カル』)
《追記》〜思惑だらけの「7月末」
高齢者のワクチン接種をめぐる1ケ月の「前倒し」問題が地方自治体を混乱の渦に巻き込んでいる。我がイ−ハト−ブ議会は突っ込みどころが満載のこの件をスル−して、涼しい顔だが、5月21日付の朝日新聞は「首相の号令に地方困惑/遠い目標『終われるはずがない』」という大見出しで、こんな裏舞台を紹介している。議員諸賢よ、6月定例会でこの辺の経緯を「Mr.PO」に問いただし、汚名を返上してほしい。
いわく〜「自治体は地方交付税のことが頭にあるから、総務省にお願いされたら断れない」(政権幹部)、いわく〜「100%打ち終わる必要はない。予約の枠に一つでも空が出たら完了だ」(首相周辺)、いわく〜「(東京五輪の開会式がある7月下旬と同時期に高齢者接種にめどをつけ)政権をとりまく空気を変えたい」(首相に近い閣僚経験者)。4月下旬、「(7月末完了は)無理」と回答した自治体は約700に上ったが、5月12日時点でその数は251に減った。”トップダウン”とはまさに川の流れのごとし。そう、「五月雨や集めてはやし〜川」…