「コンプライアンスは、一義的には法令遵守と訳されているところでございまして、広義のコンプライアンスとしては、法令はもとより、県や市町村の条例、規則等、さらには社会的な規範の遵守まで含まれているものと存じているところであります」―。「Mr.PO」(上田東一市長)は市議在任中の私の質問に対し、再三こう明言してきた。まさに模範解答である。さすが、最高学府で法律を学んだだけのことはあると感心してきたのだったが…。足掛け8年にわたる市政を仔細に検証してみると、その背後から牽強付会(けんきょうふかい)…つまり、自分の都合の良いように理屈をこじつけるという便法が浮かび上がってきた。そう、「不適切だが、違法ではない」と―。これって、ある意味で詐欺手法じゃないのか!?
というわけで、今回は以下の事例が果たして“社会的な規範”から逸脱してはいないかどうか―市民参画の形を取りながら、みなさんと一緒に考えたいと思う。次期市長選まですでに5カ月を切った。「おまかせ民主主義」のツケは結局、有権者にはね返ってくるということを私たちは上田市政下で学んだ。そのことを忘れてはなるまい。時節柄、リモ−トワ−クによるWS(ワ−クショップ=自由討論)の形式を借りながら、将来のまちづくりについて、意見交換をしようではありませんか。宮沢賢治の理想郷「イ−ハト−ブ」の実現を目指して…
【事例研究―1】〜「監査役」って、な〜に!?
東北有数の温泉地を抱える花巻市の観光業は市財政を底支えする基幹産業である。花巻温泉郷と花巻南温泉郷には令和3年4月現在、合わせて34のホテルや旅館が林立し、誘客の原動力になってきた。一方、各施設から排出される廃棄物の量も膨大で、その事務処理を担うのが「花巻温泉郷廃棄物処理組合」(安藤昭組合長)である。そして、実際の処理業務は同市内の廃棄物収集処理業者の株式会社「サンクリ−ン」に一括委託されて行われている。令和2年度はコロナ禍の影響で一時減少したものの、年間の排出量は1,000トン以上にも及び、最近では1、300トン(平成28年度)を超えた例もある。
サンクリ−ンへの委託料の2分の1が市側からの補助金で、ここ数年間は年間1,100万円から1,600万円の幅で交付され、残りの相当分が組合負担となっている。行政文書の開示請求で入手した組合側の「定時総会」資料によると、コロナ禍前年の令和元年度の市補助金は1,600万円で、これに組合負担分(約2、300万円)を加えた総額39,068,316円が委託料として、サンクリ−ンに支払われている。さらに、令和3年度分の市補助金として1,600万円が予算計上され、組合負担分もほぼ同額となっている。
ところがその一方で、花巻温泉株式会社の社長でもある安藤組合長が上田市長が就任した直後の平成26年6月29日付で、サンクリ−ンの監査役(会計担当)の重職につき、現在に至っている。「受託」と「委託」の混同―。「上田市長の決裁を経た補助金を受託する立場にある同じ人物が処理業務に当たる委託先の会計監査をになう。法的には問題はないかもしれないが、社会通念上許されるであろうか」―。ホテル業者の中にはこんな疑問を口にする人もいる。「慣例として行われてきたのだろうが、廃棄物処理組合の組合長に就任した時点で委託先の監査役の職は辞すべきではなかったのか。このままでは世間の納得は得られない」―。あなたはどう判断されますか。
【事例研究―2】〜「配偶者」って、な〜に!?
「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体に対し、請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない」―。地方自治法第142条はこう規定している。いわゆる「兼業禁止」条項である。以前、上記「サンクリ−ン」の社長だった上田市長はこの規定に従って、就任と同時にその地位を配偶者に譲った。
「(配偶者の代表取締役)自体は法に抵触するものではないという前提に立ったうえで、コンプライアンス上の、いわゆる“社会的な規範”について、どう認識しているか」―。私は平成28年6月定例会で、上田市長に対し、こうただした。当時、全国の自治体では首長の行動規範などを定める条例の制定が相次ぎ、たとえば、富山県氷見市では「氷見市長等の行動規範及び政治倫理に関する条例」(平成28年6月制定)の中で、「地方自治法第142条の規定の趣旨を尊重し、市長等の配偶者若しくは1親等の親族又は法人に対し、市等との請負契約等を自粛するよう働きかけ、市民に疑惑の念を生じさせないよう努めること」(第7条)と規定した。“一心同体”が陥りやすい関係を未然に防ごうという行政判断である。
私の質問に対し、上田市長は「後任の人材探しが難航した。妻には早く代わりを見つけたい。私と妻の間には“チャイニ−ズウオ−ル”(万里の長城)を張りめぐらし、情報交換は一切していない」と「利益相反」原則の重要性を強調する一方で、「法的に問題ないが、議会がダメだというなら、その旨を条例で制定してほしい」と“開き直り”のような答弁を繰り返した。その後、第三者が社長職を継いだ時期もあったが、平成31年2月1日付で配偶者がふたたび社長の地位に返り咲いて、現在に至っている。
花巻温泉郷での廃棄物処理とは別にサンクリ−ンは一般廃棄物としての家庭ごみなどの収集も請け負っている。現在、専門業者9社がこの業務を分担しており、令和3年度の市側からの委託契約の総額はざっと2億1千3百万円。うち約4分の1の5、280万円がサンクリ−ンへの委託分で、温泉郷の分も含めると、年間7千万円近い税金が同社に支払われていることになる。「不適切だが、違法ではない」という強弁が「Mr.PO」の“社会的な規範”…たとえば「配偶者同士での金銭(委託料)の授受行為」が同社の”監査役“問題とも相まって、世間一般の常識とどう折り合いがつくのであろうか。皆さんのお考えをお聞かせください。
(写真は市内の随所に設置されているゴミ集積所。旧花巻市内だけで727か所、旧町を含めた全市内では1371か所。コロナ禍の中、日夜、収集業務に当たる現場作業員に心からの感謝を捧げたい=旧花巻市内で)
《追記》〜みんな、お金がほしいもん
「毘沙門叩き」を名乗る方から以下のようなコメントが届いた。原文のまま、紹介する。「みんなお金ほしいもん。前にも書いたことがあるけど、みんなお金欲しいもん。花巻温泉郷が元気なくなると廃棄物を処理する会社も困るでしょ。だからさ、花巻市がそういう会社にお金が届くようにするために、花巻温泉郷の観光業者にお金をいっぱい出すのって、仕方ないんじゃないの?コンプラ的にいいか悪いかはわからないけど」