「国民の命と暮らしを守る」というまるで百万遍念仏みたいな“呪文”を唱え続けた上、結局は退陣に追い込まれることになった菅義偉首相と入れ替わるように、今度はその“亡霊”がよみがえったのではないかと一瞬、頭の中に言いしれない虚無が去来した。花巻市の上田東一市長(67)は24日正式に3選出馬を表明したが、政治家の初心には欠かせない心のこもったメッセ−ジは聞かれずじまい(24日付当ブログ「指導者のスピ−チ」参照)。さらに、その大切な資質のひとつとして、“言魂”(ことだま)を言挙げする割りには魂を揺さぶるようなひとかけらも伝わってはこなかった。まずは、岩手日日新聞(9月25日付)からその出馬“語録”のいくつかを拾ってみると―
▽「市民の力であと4年間の任期を頂き、働かせてほしい。市の維持発展、市民の命と暮らしを守るため全力を尽くしてきたが、多くの事業は姿が見えてきたものの、未だ道半ばだ」
▽「財政基盤がしっかりしている今こそ、今後4年間に取り組むことが花巻の将来の基礎を決める4年といってもいい」
▽「市民が望む新しい図書館の姿を話し合い、実現に向けた諸課題を解決していく。JRとさらなる調査を行い、市の財政上無理のない計画を策定し、市民にその是非を問いたい」(新図書館建設やJR花巻駅の橋上化などについて)
オヤっと思った。任期を重ねた政治家たるものは大抵在任中の政治運営について、その瑕疵(かし)も含めて、反省のひとくさりを口にするものである。現に目の前の自民党総裁選をめぐっては、胸の内はさておいて「過去の反省」のオンパレ−ドである。メルケル演説のような“政治哲学”は最初から望むべくもないが、たとえば、市民参画という手続きを一切無視して公表した「住宅付付き図書館」の駅前立地構想とその白紙撤回、橋上化に伴う調査費予算が議会側に否決されたにもかかわらず、“やらせ要請”という疑惑の中で予算を再上程するという強権突破。そして、終始つきまとった「PO」(パワハラ&ワンマン)疑惑の数々…。「緘黙」(かんもく)を貫いたところがこの人らしいと思えば、その通りである。
次期市長選(2022年1月16日告示、同23日投開票)にはすでに花巻市議会議長の小原雅道さん(61)も出馬の意向を示しており、両者の一騎打ちになる公算が強い。「失われた8年」を取り戻すためにも議会制民主主義にのっとった“マナジリ”を決した真剣勝負を双方に望みたい。私たち市民はもう「お任せ民主主義」のツケはブーメランのように自身に舞い戻ってくることを知ってしまっている。
(写真は菅首相のパクリみたいな“公約”を掲げて、記者会見に臨んだ上田市長=9月24日、花巻市内のホテルで。IBCテレビの放映画面から)