今回の花巻市長選を“密着”取材しようと思ったのは、現場抜きの原稿はあり得ないという職業病(記者根性)のせいもあるが、何か予兆とか予感めいたものを感じたからでもある。その正体を知りたいと思った。
「まさみち」さんこと、立候補者の小原雅道氏(61)の弁舌が選挙戦中盤から微妙に変化してきた。「市職員こそが車のエンジン」「ワンマンとリ−ダ−シップは違う」「どこでも、賢治さんを感じることができる町に」…。「公約」の棒読みから次第にアドリブが多くなってきたからである。「自分でもよく覚えていない」とまさみちさん。だから、本物なんだと私は納得した。仮衣装を脱ぎ、ひょいと素顔が表に飛び出した瞬間だった。無意識こそが“進化”をもたらすの謂(い)いである。
素顔は素顔を呼ぶ−。終盤戦、周囲の状況にも次第に変化がみられるようになった。たとえば、「手振り」―。最初は手のひらを遠慮がちに動かすだけの仕草だったが、それが両手の動きに変わり、最後は大きな輪を描く「OK」マ−クに。まさみちさんに向けられる身ぶり手ぶりがどんどん、大胆になっていった。つまり、双方の距離が次第に狭くなっていくのを実感したのである。
「予兆」とか「予感」はこうした変化の中から生まれた。私は市議2期目のスロ−ガンに「いざ、『イ−ハト−ブ』の建国へ」―を掲げた。いま考えて見ても、大層なお題目ではあるが、その建国事業がこの1週間の選挙戦の中で少し、実現に向けて動き出したと感じたのである。「イ−ハト−ブ」とは“夢の国”(ドリ−ムランド)を夢想した宮沢賢治の造語である。「子どもたちには夢を/若者には希望を/お年寄りには安心を」―。小原氏の政治理念は賢治が生涯、追い求めた「本当の幸せとは何か」というテーマと見事に通底している。花巻の未来を決するであろう、この大事業に実際に着手できるかどうか―23日に決まる。
(写真は赤ちゃんを抱く女性と話し込むまさみちさん。この笑顔の中に私はまさみちさんの“素顔”を見つけた=1月22日午後、花巻市南新田のきらきらモ−ルで)