「これって、ある種の数字の捏造(ねつぞう)ではないのか」―。花巻市のHP上に掲載されたあるグラフを眺めながら、ふと不安がよぎった。「JR花巻駅橋上化・東西自由通路整備概要案について、高校生と意見交換を行いました」(11月21日付更新)と題する記事によると、JR花巻駅の利用について「よく使う」(52・7%)と「たまに使う」(29・7%)を合わせた計82・4%のうち、事業実施に賛成した割合は78・4%にのぼったという内容だった。統計学上の原則である「有意差」を無視した“数字の詐術”が透けて見えたからである。この日(24日)開かれた記者会見で、市側は「整備に好意的な意見が多数」と述べたが、そのからくりは?
上記の意見交換会に参加したのは市内の4校の75人(うちアンケ−トへの回答者は74人)。統計学で定められたサンプル算出法によると、たとえば2000人に対してアンケ−ト調査を実施する場合、必要最低限で323人が対象とされなければならない。ところが、今回の対象者はそのわずか4分の1にすぎない。ちなみに、4校の在籍者数(定員と実数)は現在時点で2525人にのぼる。さらに、この種のアンケ−トのエビデンス(証拠)を担保する際に最も重要な原則が「無作為抽出」にもかかわらず、その選抜が学校側に丸投げされている点も見逃せない。
たとえば、こんな具合である。「就職が決まった3年生」(花北青雲、参加者57人)、「生徒会役員」(花巻南、同11人)、「探究活動に興味のある者」(花巻北、同5人)、「生徒会役員」(花巻東、同2人)。一方、花巻農高(定員360人)が対象外になっているほか、JR花巻駅を利用して市外の高校へ通学している高校生も当初から除外されている。この点について、担当の建設部都市機能整備室はこう強弁する。「花農とは日程調整がつかなかった。統計上の数字を示したのではなく、集まった意見を公表しただけだ」―。橋上化推進を求める例の“やらせ要請”の悪夢を思い出した。「これは高校生の政治利用ではないのか」…と
駅西口に所狭しと並ぶ駐輪場に足を運んでみた。黒北、黒工、北上翔南、盛岡南、盛岡商、不来方、紫波総合…。区分けされた自転車置き場には地元の高校生だけではなく、JR花巻駅経由で市外の高校へ通う生徒たちの自転車もずらりと並んでいた。一方で、駅を利用しないで自転車や徒歩で直接、通学する多くの生徒たちは最初から対象から排除。結果的に駅利用者に特化した形の今回のアンケ−ト調査に一体、何ほどの意味があるのか。考えて見れば、高校生に限らず、駅利用者が駅の利便性向上を望むのは当たり前ではないか。問題なのは対象者を一部に特化したこうした手法―つまり、世論誘導を企てる上田流「手法」が高校生の周辺にまで及びつつあるということである。
「未来を担う若者世代がそう(橋上化)望むなら、それをかなえてやるのが親の世代の役割ではないのか」―。親しい友人はそうつぶやいた。「橋上化」賛美に彩られた高校生たちの意見表明は100人近くにのぼる。それをツラツラ読みながら、「これは罪深いな」と心底、思った。新花巻図書館と橋上化との”密約”疑惑(ワンセット論)に続く黒い霧である。
(写真はずらりと並んだ高校生の自転車群=JR花巻駅の西口広場で)
《追記》〜記者会見の資料は下記のアドレスへ
定例記者会見用資料 JR花巻駅橋上化・東西自由通路整備事業に係る今後の取り組みについて (PDF 423.8KB)