「タダじゃ、ないんですよ」―。上田東一市長の発言に一瞬、虚を突かれた。花巻市議会9月定例会で複数の議員が新花巻図書館の立地場所について、旧総合花巻病院跡地の適否を問うた際にこの「タダ」発言が飛び出した。「そうか」と危うく合点しそうになって、ハタと気が付いた。この該当地はすでに市側と病院側の双方の間で有償譲渡の協定が締結済みだったことを思い出したのである。まるで、市有地として購入するためには「新たな支出」が要請されるような口ぶり…これって、もう立派な詐欺行為ではないのか。実はこの発言には巧妙な“伏線”が用意されていた。
「駅前のスポ−ツ用品店の土地を購入する経費や整備事業費がわからないと比較検討ができないのではないかという趣旨の意見の方も9名、旧総合花巻病院跡地を希望するが、事業費の比較検討が必要ではないかという意見の方が2名あったところであります」―。上田市長は定例会初日(12月2日)の行政報告で、市民説明会における新図書館の立地場所の集約について、「病院跡地が32人、市側が第1候補に挙げる駅前スポ−ツ店敷地が18人だった」としたうえで、土地購入に関してはその後の一般質問の中で「病院跡地の取得には約3億円が見込まれるが、スポ−ツ店敷地の場合は1億5千万円から2億円程度と試算されている」と具体的な数字を示した。これこそが、上田市長の得意技―「数字による目くらまし」手法である。この“落とし穴”にはまらないためにここで、きちんとおさらいをしておきたい。
「総合花巻病院の移転整備に関する協定」(平成29年3月6日付)には病院跡地の取り扱いについて、以下のように定めている。
●「乙(公益財団法人総合花巻病院)は新病院開業後、現在の病院跡地内の建物、施設すべてを解体撤去し更地にした上で、甲(花巻市)に譲渡する」(4項の4)
●「土地価格は不動産鑑定評価し、当該評価額を基準に甲と乙とが協議して決定する」(4項の5)
つまりはこういうことである。病院跡地についてはその譲渡価格の多寡(たか)にかかわらず、すでに市側が購入することが双方で合意しているということである。逆に言えば、購入を拒否した場合は、契約不履行も成立するという民法上の協定が締結済みということを忘れてはならない。一方のスポ−ツ店敷地はまさに新規購入の物件に相当し、これこそが「新たな支出」(税金のムダ使い)に当たるというべきである。伊藤盛幸議員(はなまき市民クラブ)が一般質問の中で「すでに市有地化が決まっている病院跡への立地を決断すべきではないか」と迫ったのはけだし、正論である。
「数字(1・5億vs3億)だけ見れば、やはり駅前立地も選択肢として残るのでは…」―。一方で、市民だけではなく議員の中にもこんな考え方がいまだに根強いらしい。そもそもが比較対照が成立しない数字による“目くらまし”…術中にはまるとはこのことではないか。当ブログで何度も指摘してきたように、ここでも”民意”(市民の声)が恣意的に作られていく数字のからくりが浮き彫りになっている。
ところで、数字の“マジシャン”を気取ってきた上田市長が今度はその数字の逆襲を受ける羽目に陥っている。病院跡地への立地を希望する「32人」…さすがのマジシャンもこの数字をないがしろにはできまい。以下の発言にその手の内が透けて見えてくる。「強い意見やビラ配りをする市民だけでなく、こうした人たちに気圧(けお)されて(駅前立地を希望しながら)発言できなかった人もいたと聞いている。より幅広い意見を吸い上げたい」(12月5日付当ブログ)―。この人が今後、どんな手法を繰り出すのか、その一挙手一投足からいや増し、目が離せなくなってきた。記憶に新しいところでは11月24日付当ブログ「今度はアンケート”捏造”疑惑」を参照していただきたい。
(写真は解体前の花巻病院。建物が撤去された眼前に現れたのはまさに「文教地区」にふさわしい光景だった=花巻市花城町で、インタ−ネット上に公開の写真から)
《追記》〜「タダ」発言のなぞ解き
「タダ」発言のからくりを整理しようと思い、市長答弁の録画を聞き直してみた。「仮に病院跡地の譲渡金額が3億円だとして…、いや立地候補地の駅前スポ−ツ店の敷地の金額もまだ決まっていませんが、いずれにせよ(病院跡地に比べて)はるかに安い」と述べたあと、こう続けた。「たとえば、市が独自にその土地(病院跡地)を他の目的に使おうとした場合、(そこに図書館が建っていれば)新たに土地を求めなければならない。そうすればまた、金がかかってしまう。だから、タダではないと言ったんです。将来的には民間活用(譲渡)ということもあり得る」―。お得意の数字をちらつかせながら、図書館の病院跡地への立地へ「NO」サイン(予防線)を出したというのがミエミエ。それにしても、いかにもこの人らしい、なかなか手の込んだ“詭弁”ではないか。