市民の意見が二分される形で迷走を続けている「新花巻図書館」問題をめぐって、28日開会した花巻市議会3月定例会の一般質問で論戦の火ぶたが切られた。関心の高まりを反映してか、ふだんは閑散としている傍聴席には20人以上の市民が詰めかけた。この日は久保田彰孝議員(日本共産党市議団)と羽山るみ子議員(はなまき市民クラブ)ら3人がこの問題を取り上げた。「賃貸住宅付き図書館」の駅前立地という複合構想が白紙撤回されてすでに3年以上。現在に至っても先の見えない「JR」交渉について、市民の間には「もうそろそろ、政治決断すべき時ではないのか」といういら立ちの声も聞かれるようになった。
「市側が立地場所の第1候補に挙げているJR花巻駅前のスポ−ツ店用地について、JR側との土地譲渡交渉はその後、進展はあるのか。旧総合花巻病院跡地への立地の可能性をどう考えているか」と久保田議員がただしたのに対し、上田東一市長と市川清志生涯学習部長は交互にこんな答弁を繰り返した。「スポ−ツ店用地とその周辺の土地を譲ってほしいという要望は伝えているが、まだ回答はない。病院跡地への立地を望む市民がいる反面、高校生や各種団体などは駅前にこだわっており、市民全体の意見集約はまだできていない。市民の意見が病院跡地に集約され、仮にJR交渉が不調に終わった場合は駅前立地を断念する可能性はある」
一方、羽山議員は「そもそも高校生が駅前に求めているのは本当に図書館なのか。図書館以外の施設も含めて幅広く意見を聞くことも必要ではないか。アンケ−ト調査をする用意はないか」と高校生の駅前立地への意見集約のあり方に疑義をぶつけた。これに対し、市川部長は「図書館の立地場所については駅前と病院跡地の二か所に市民の意見が分かれており、公正な判断材料を提供する段階ではない」として、否定的な考えを示した。さらに、羽山議員が「市内高校6校を対象としたグル−プワ−クではスポ−ツ店用地を希望した生徒が93人だったのに対し、病院跡地は25人だった」とした上で、市民説明会では逆に病院跡地への立地を希望する意見が多かったことを指摘し、この“逆転”の認識について、見解を求めた。
「議論がかみ合っていない。まるで高校生にとって図書館は必要ではないと主張しているみたいに聞こえてくる」―。牽強付会(けんきょうふかい)を地で行く上田流“詭弁”がまたぞろ、頭をもたげたと思った。昨年の12月定例会での“高齢者”分断発言がふいによみがえったからである。上田市長はその時、こう言ってのけた。「高齢者のためだけの図書館で良いのか。それなら今の図書館で十分。若い人は圧倒的に駅前を希望している」(2022年12月6日付当ブログ参照)―。この”暴言”をきっかけして、高校生を駅前立地の方向へ意図的に誘導しようとしているのではないかという”疑惑”が市民の間に一気にふくれあがった。いわゆる、高校生の「政治利用」である。
“悪夢”は3年前にさかのぼる。2020年1月29日、上田市長は突然「住宅付き図書館」の駅前立地という“サプライズ”(青天の霹靂)を公表した。寝耳に水だった市民の多くや議会側がいっせいに反対ののろしを上げた。その怒りの根底にあるのは「図書館」問題そのものよりも実はこうした住民無視の政治姿勢にあった。困ったことに、この人はどうもそのことにまだ、気が付いていないらしいのである。そういえば、昨年9月定例会でのある議員の質問に対し「言葉尻をとらえた」と言いがかりをつけ、反問権を振りかざして“逆襲”したことを思い出した。急所を突かれた際にこうした逆襲の手口を繰り出すのが、上田流“詭弁”の作法である。この日の質疑を通じて、そのことを改めて肝に銘じた。
ついでにもうひとつ、上田市長の“開き直り”の手口も紹介しておきたい。先の“暴言“について、ある議員が「看過できない重大発言だ。世代間の分断を促しかねない。取り消しを要求したい」と迫ったのに対し、上田市長はこう、のたまわったのだった。「私も現在、68歳の老齢世代。だからこそ、将来を見すえて若者を含めたあらゆる世代に開放された図書館を目指したいと思っている。表現が不適切だとしたらお詫びをしたいが、取り消す必要はない」―。”無理”が通れば、”道理”が引っ込む…これが強権支配に共通する原理である。
(写真は市長の“詭弁”答弁に食い下がる羽山議員=2月28日午後、花巻市議会議場で。インターネットの議会中継の画面から)