奇跡的な逆転勝利をおさめた兵庫県の斎藤元彦知事をめぐって、今度は公職選挙法違反(買収)が取り沙汰されるなどその成り行きに全国の注目が集まっている。今回の選挙戦では「SNS」(ソーシャルネットワーキングサービス)を最大限に駆使したことが勝利につながったとされている。この選挙戦略の企画・立案を委託された地元のコンサルタント会社と斎藤知事の間に法を逸脱した“金銭授受”があったかどうかが今後の焦点になる。選挙期間中の買収行為は公選法で禁じられているからである。
一方、「アウトソーシング」(外部委託)という手法は今回のような選挙戦に限らない。むしろ、行政手法としては一般的とも言える。「駅前か病院跡地か」という新花巻図書館をめぐる双方の「比較調査」も外部コンサルタントに委託され、この資料をもとにした「対話型市民会議」の初会合が11月17日に開催された。4時間にも及ぶ長丁場にヘトヘトになりながら、私は目の前の光景に強い憤(いきどお)りを抱いた。
無作為抽出した15歳以上の3,500人の中から参加希望のあった75人で構成されたというのが市側の説明だった。しかし、70歳以上の高齢者はわずか6人で、その「世代偏重」にも何となく恣意(しい)を感じていた。そして、肝心の初日の参加者は10人も少ない65人。たったこれだけの数が全人口90,102人(10月31日現在)の“民意”を反映していると言えるのか。言えるはずがないではないか。一方、「病院跡地」への立地を求める署名は最終的に10,343筆に達したことも明らかになった。まるで「アリバイ」工作みたいな“茶番劇”ではないか、とそう感じたのである。
「この会議は立地場所をどっちかに決めるという場ではない。双方のメリットとデメリットを出し合い、それを集約していくというのが私の役割だ」―。メインファシリテーター(進行役)の山口覚・慶応義塾大学大学院特任教授は冒頭、こうあいさつした。「政策・メディア研究科」という長たらしい肩書を聞きながら、私は腑に落ちない気持ちになった。本来、公平性を担保するために「公募」するはずだったプロポーザル方式は適格者の応募がなかったために不調に終わった。代わって指名されたのが山口教授だった。同大学と当市との間で2018年7月、「地域おこしに関する研究開発の連携協力にかかる覚書」が交わされている。今回の指名はこの、いわゆる「連携協定」を根拠にしたというのが市側の言い分である。「公募」から一転、余りにも安易な選定ではないのか。
「LOCAL&DESIGN株式会社」代表取締役―。山口教授のもうひとつの肩書である。平成22年に福岡市に設立された会社で、HPなどによると都市計画やまちづくりに関連するWS(ワークショップ)やコンサルタント業務など幅広い分野での活動が目立っている。山口教授自身、大手建設会社の勤務経験があり、1級建築士の資格を持っている。また、もう一人の共同経営者は「博多駅前」開発で知られた人物である。山口教授には豊富な知見を活かした進行役を期待したいと思う。今後の日程は12月21日と来年1月26日で、予備日として2月15日が設定されている。
初回の傍聴者は私を含めて15人。停止線の内側に閉じ込められ、写真撮影はわずか1分間。WSの様子もじかに聞き取ることが許されない異様な空間。思わず「まるで、ゲットー(ユダヤ人の強制隔離地区)ではないか」とつぶやいてしまった。市民を排除する”対話型市民会議”とは一体、何であろうか…
(写真は戒厳令下の空気が漂った「対話型市民会議」。たった1分間の写真撮影だったため、若干ピンボケになってしまった=11月17日午後。花巻市のまなび学園で)